昭和32(1957)年、新医療費体系の主眼であった「物」と「技術」の分離は、歯科ではなぜかなされなかった。ここが、歯科医療低迷の原点であった。薬価基準のように銘柄別に収載するためには、調査対象品目も多く、調査、その他準備に十分な時間的余裕がなかったというのが理由のようであるが、「官僚の不作為」そのものといわざるを得ない。昭和42(1967)年に金やパラジウムの大幅な値上げがあり、「物」を「技術」から分離することになったが、とりあえず口腔に残る物に限って統一品名で収載することとし、いわゆる中間材料は収載しなかったと前回書いたが、その改定内容がひどかった。今回は、史上最悪の昭和42年歯科診療報酬改定の実証分析の詳細を述べる。このことに関しては、残念ながらこれまでだれもやってこなかった分野で本邦初公開である。昭和42(1967)年改定内容の主なものとしては、医科では、1.初診料、再診料の引き上げ、内科加算2.手術料の80%引き上げ3.入院料のおおむね14%引き上げ4.注射料の薬剤料と技術料への分離歯科では、歯科材料と技術料の分離−材料価格基準であった。なお、歯科では医科と同様に初診料は引き上げられたが、歯科における手術料の80%引き上げは、次回の昭和45年改定時に行われることとなる。改定率は医科7.68%、歯科12.65%と歯科優位であった。昭和42年の歯科改定の概要は次のようなものであった。1.初診料29点を30点に改正2.レ線フィルム10枚以上はフィルム代のみ3.ラバ−ダム防湿法の導入4.Pの手術点数の引き上げ5.根管治療に対する(即充)項目の設定6.インレ−・冠等の補綴を歯冠修復と呼称7.印象料を採用(1製作毎)8.歯科材料と技術点数分離算定9.20K等の使用を除外(金属冠)10.補綴物に差額徴収を認めた11.7番欠損への延長ブリッジを認める12.アマルガム隣接面の20点の加算13.生活歯のダミ−2歯までのブリッジを認め、それ以上は差額徴収すること
(表1)昭和42年(改定前)と昭和43(改定後)の社会医療診療行為別調査によれば、改定前の総件数は1,712,985(初診1,154,445、再診558,540)で、翌年の総件数は1,759,040(初診1,139,255、再診619,785)であった。総点数は、金属の値上げによって333,306,608から449,759,540と1.35倍となった。診察から処置をみると、点数が上がったのは初診料(29点→30点)と深夜加算(31点→32点)、生活歯髄切断(14点→単32点、複34点)ぐらいで、直抜即時根充と失活抜髄即日根充(単・複)が新設された。回数は、投薬が1.14倍、X線撮影が1.68倍と増えている。
(表2)歯冠修復および欠損補綴をみると、充填では、これまでのアマルガム(24点)、燐酸セメント(10点)、硅酸セメント(29点)、レジン(29点)に隣接面加算の20点が新設され、アマルガムは20点+材料、燐酸セメントは10点+材料、硅酸セメントは28点+材料、レジンは28点+材料となる。点数は充填全体の回数・総点数に大きな変化はなかった。鋳造歯冠修復のインレ−は、これまで金合金(14K)インレ−(1個につき-ポストインレ−130点、複雑窩洞インレ−90点)と、その他の合金インレ−(1個につき)70点であったものが14K、金パラ、その他の合金ともに1個につき60点、1面につき10点+材料となる。回数は、金以外のインレ−(金パラとその他の合金の計)が2倍、金額は材料の高騰で3.8倍となった。金属冠はこれまで金合金(20K以上)冠の大臼歯180点、小臼歯150点、金銀パラジウム合金冠は大臼歯140点、小臼歯120点、その他の金属冠は大臼歯70点、小臼歯70点であったものが、嚼面圧印冠80点+材料、嚼面鋳造充実冠100点+材料となる。金パラ嚼面充実冠の回数は1.5倍、金額は材料の高騰で1.98倍となった。歯冠継続歯はこれまで、14K裏装170点、その他の合金裏装120点、全陶歯冠70点、レジン冠60点、ジャケット冠70点であったものが、14K裏装、金パラ裏装、その他の合金裏装が100点+材料、陶歯冠とレジン冠が70点+材料、となり回数は2割増となった。支台築造は、セメント(10点)が増加し、アマルガム(30点)と銀合金(45点)は1/3に。有床義歯は、総義歯以外の技術料が、なぜか-10点になり、ブリッジが増えたため1歯義歯の回数は半減しているのに対し、総義歯は3割増となっている。鋳造鉤はこれまで、金合金(14K)大臼歯120点、金合金(14K)小臼歯100点であったものが、材料を問わず70点+材料となる。1歯義歯が半減したため回数は3割減。線鉤は、これまで不銹鋼と特殊鋼に分け、双歯鉤、レスト付、レストなしと区別していたものを金属を問わず、双歯鉤30点+材料、両翼鉤25点+材料、レストなし22点+材料となる。これも、1歯義歯が半減したため回数は3割減。バ−は、これまで不銹鋼55点、特殊鋼65点だったものが、鋳造バ−が110点+材料、屈曲バ−が55点+材料となり、回数は2割増。ダミ−はこれまで前歯部は金合金(14K)裏装180点、その他合金裏装70点、レジン装55点、臼歯部は金銀パラジウム合金裏装又は鋳造ダミ−200点、その他合金裏装又は鋳造ダミ−が110点となっていたものが、前歯部は裏装有り110点+材料、裏装無しその他合金80点+材料、臼歯部は鋳造、裏装ともに110点+材料となる。7番欠損への延長ブリッジや生活歯のダミ−2歯までのブリッジが認められたため、数は3〜4倍と増えた。
(表3)修理と手術等では、印象採取料(20点)、スタディモデル(38点)、暫間被覆冠(6点)が新設され、印象採取料(20点)は影響率(1.14%)が大きかったが、それ以外では、顎骨腫瘍手術(190→340点)、歯根嚢胞手術(190→340点)、顎骨骨折手術(320→580点)、歯槽膿漏手術(歯肉切除術70→100点、歯肉剥離掻爬術130→150点)の点数の引き上げぐらいである。
日本歯科医師会
富山県歯科医師会
富山市歯科医師会
昭和32(1957)年、新医療費体系の主眼であった「物」と「技術」の分離は、歯科ではなぜかなされなかった。ここが、歯科医療低迷の原点であった。薬価基準のように銘柄別に収載するためには、調査対象品目も多く、調査、その他準備に十分な時間的余裕がなかったというのが理由のようであるが、「官僚の不作為」そのものといわざるを得ない。
昭和42(1967)年に金やパラジウムの大幅な値上げがあり、「物」を「技術」から分離することになったが、とりあえず口腔に残る物に限って統一品名で収載することとし、いわゆる中間材料は収載しなかったと前回書いたが、その改定内容がひどかった。
今回は、史上最悪の昭和42年歯科診療報酬改定の実証分析の詳細を述べる。このことに関しては、残念ながらこれまでだれもやってこなかった分野で本邦初公開である。
昭和42(1967)年改定内容の主なものとしては、
医科では、
1.初診料、再診料の引き上げ、内科加算
2.手術料の80%引き上げ
3.入院料のおおむね14%引き上げ
4.注射料の薬剤料と技術料への分離
歯科では、
歯科材料と技術料の分離−材料価格基準であった。
なお、歯科では医科と同様に初診料は引き上げられたが、歯科における手術料の80%引き上げは、次回の昭和45年改定時に行われることとなる。
改定率は医科7.68%、歯科12.65%と歯科優位であった。
昭和42年の歯科改定の概要は次のようなものであった。
1.初診料29点を30点に改正
2.レ線フィルム10枚以上はフィルム代のみ
3.ラバ−ダム防湿法の導入
4.Pの手術点数の引き上げ
5.根管治療に対する(即充)項目の設定
6.インレ−・冠等の補綴を歯冠修復と呼称
7.印象料を採用(1製作毎)
8.歯科材料と技術点数分離算定
9.20K等の使用を除外(金属冠)
10.補綴物に差額徴収を認めた
11.7番欠損への延長ブリッジを認める
12.アマルガム隣接面の20点の加算
13.生活歯のダミ−2歯までのブリッジを認め、それ以上は差額徴収すること
(表1)昭和42年(改定前)と昭和43(改定後)の社会医療診療行為別調査によれば、改定前の総件数は1,712,985(初診1,154,445、再診558,540)で、翌年の総件数は1,759,040(初診1,139,255、再診619,785)であった。総点数は、金属の値上げによって333,306,608から449,759,540と1.35倍となった。
診察から処置をみると、点数が上がったのは初診料(29点→30点)と深夜加算(31点→32点)、生活歯髄切断(14点→単32点、複34点)ぐらいで、直抜即時根充と失活抜髄即日根充(単・複)が新設された。回数は、投薬が1.14倍、X線撮影が1.68倍と増えている。
(表2)歯冠修復および欠損補綴をみると、
充填では、これまでのアマルガム(24点)、燐酸セメント(10点)、硅酸セメント(29点)、レジン(29点)に隣接面加算の20点が新設され、アマルガムは20点+材料、燐酸セメントは10点+材料、硅酸セメントは28点+材料、レジンは28点+材料となる。点数は充填全体の回数・総点数に大きな変化はなかった。
鋳造歯冠修復のインレ−は、これまで金合金(14K)インレ−(1個につき-ポストインレ−130点、複雑窩洞インレ−90点)と、その他の合金インレ−(1個につき)70点であったものが14K、金パラ、その他の合金ともに1個につき60点、1面につき10点+材料となる。回数は、金以外のインレ−(金パラとその他の合金の計)が2倍、金額は材料の高騰で3.8倍となった。
金属冠はこれまで金合金(20K以上)冠の大臼歯180点、小臼歯150点、金銀パラジウム合金冠は大臼歯140点、小臼歯120点、その他の金属冠は大臼歯70点、小臼歯70点であったものが、嚼面圧印冠80点+材料、嚼面鋳造充実冠100点+材料となる。金パラ嚼面充実冠の回数は1.5倍、金額は材料の高騰で1.98倍となった。
歯冠継続歯はこれまで、14K裏装170点、その他の合金裏装120点、全陶歯冠70点、レジン冠60点、ジャケット冠70点であったものが、14K裏装、金パラ裏装、その他の合金裏装が100点+材料、陶歯冠とレジン冠が70点+材料、となり回数は2割増となった。
支台築造は、セメント(10点)が増加し、アマルガム(30点)と銀合金(45点)は1/3に。
有床義歯は、総義歯以外の技術料が、なぜか-10点になり、ブリッジが増えたため1歯義歯の回数は半減しているのに対し、総義歯は3割増となっている。
鋳造鉤はこれまで、金合金(14K)大臼歯120点、金合金(14K)小臼歯100点であったものが、材料を問わず70点+材料となる。1歯義歯が半減したため回数は3割減。
線鉤は、これまで不銹鋼と特殊鋼に分け、双歯鉤、レスト付、レストなしと区別していたものを金属を問わず、双歯鉤30点+材料、両翼鉤25点+材料、レストなし22点+材料となる。これも、1歯義歯が半減したため回数は3割減。
バ−は、これまで不銹鋼55点、特殊鋼65点だったものが、鋳造バ−が110点+材料、屈曲バ−が55点+材料となり、回数は2割増。
ダミ−はこれまで前歯部は金合金(14K)裏装180点、その他合金裏装70点、レジン装55点、臼歯部は金銀パラジウム合金裏装又は鋳造ダミ−200点、その他合金裏装又は鋳造ダミ−が110点となっていたものが、前歯部は裏装有り110点+材料、裏装無しその他合金80点+材料、臼歯部は鋳造、裏装ともに110点+材料となる。7番欠損への延長ブリッジや生活歯のダミ−2歯までのブリッジが認められたため、数は3〜4倍と増えた。
(表3)修理と手術等では、
印象採取料(20点)、スタディモデル(38点)、暫間被覆冠(6点)が新設され、印象採取料(20点)は影響率(1.14%)が大きかったが、それ以外では、顎骨腫瘍手術(190→340点)、歯根嚢胞手術(190→340点)、顎骨骨折手術(320→580点)、歯槽膿漏手術(歯肉切除術70→100点、歯肉剥離掻爬術130→150点)の点数の引き上げぐらいである。