公的年金制度は、年金給付に要する費用をその時の現役世代の負担によって賄う「賦課方式」を基本としつつ、一定の積立金を保有しそれを活用する財政方式を採用している。具体的には、公的年金の給付は、毎年度、「①保険料収入」、「②国庫負担」、「③積立金(元本の取崩し及び運用収入)」の3つの財源により賄われているが、積立金は補助的な役割となっている。国民年金法第四条の三において、「政府は、少なくとも五年ごとに、保険料及び国庫負担の額並びにこの法律による給付に要する費用の額その他の国民年金事業の財政に係る収支についてその現況及び財政均衡期間における見通しを作成しなければならない。」と規定されている。 8月27日、厚生労働省の社会保障審議会年金部会から公的年金の財政検証が発表になった。現役世代の平均手取り収入に対する給付水準(所得代替率)は経済成長と労働参加が進むケースでは将来にわたり50%以上を維持できそうだという試算内容になっている。ただ、この水準は65歳での受け取り開始時点に限ったもので、年齢を重ねるごとに目減りして最終的には40%程度に下がる。 所得代替率は(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入で計算されるが、2019年度で(13.0万円+9.0万円/35.7万円)=61.7%である。 前回の2004(平成16)年年金制度改正においては、少子高齢化が進行する中、将来世代の負担が過重なものとなることを避けるために、将来にわたって保険料水準を固定しつつ、その範囲内で給付を賄えるよう「マクロ経済スライド」により年金の給付水準を調整する仕組みを導入することにより、長期的な給付と負担のバランスをとりつつ、将来にわたって年金の給付水準を確保することが決められた。具体的には、①上限を固定した上での保険料の引上げ(保険料水準の上限:国民年金17,000円(2004年度価格)、厚生年金18.3%)、②基礎年金国庫負担の2分の1ヘの引上げ、③積立金の活用(概ね100年間で財政均衡を図る方式とし、積立金を活用して後世代の給付に充当)である。 そして、今回の2019(令和元)年財政検証においては、経済成長と労働参加が進むケース(ケースI〜Ⅲ)では、マクロ経済スライド終了時に、所得代替率は50%以上を維持するが、経済成長と労働参加が一定程度進むケース(ケースⅣ・V)では、2040年代半ばに所得代替率50%に到達する(その後も機械的に調整した場合、マクロ経済スライド終了時に、所得代替率は40%台半ば)。 経済成長と労働参加が進まないケースⅥでは、機械的に調整した場合、2052年度に国民年金の積立金が無くなり、完全賦課方式に移行せざるをえない。ただし、ケースⅥは、長期にわたり実質経済成長率▲0.5%が続く設定であり、年金制度のみならず日本の経済・社会システムに幅広く悪影響を生じるので、回避努力が必要となる。(表2019年財政検証結果参照)
経済成長と労働参加を促進することが、年金の水準確保のためにも重要であり、オプション試算A(被用者保険の更なる適用拡大―・適用拡大を125万人、325万人、1,050万人の3つのケース)と、オプション試算B(保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択―・基礎年金の加入期間の延長・在職老齢年金の見直し・厚生年金の加入年齢の上限の引上げ・就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大)も試算されている。 年金財政検証にはいろいろ問題点が指摘されている。まず、2047年までのマクロ経済スライド(賃金再評価や物価スライドの改定率から、現役被保険者の減少を基本とした調整率を控除し、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組み)であり、国民年金は6.5万円から5万円になり3割も削られる。どうやって生活していけるのか疑問である。 次に、20年間実質賃金はほぼマイナスなのに、全ケースプラス想定としていることである。そして、財政検証はに6つのシナリオを設定して、経済再生のケース(Ⅰ〜Ⅲ)では代替率が5割を維持し、半数のシナリオ(Ⅳ〜Ⅵ)は5割以下となっているが、非現実的なシナリオで試算されていることである。物価や賃金が上がらず、運用利回りもほぼゼロの現実に対して楽観的数値で試算がおこなわれている。(2019年財政検証の諸前提参照)
実質賃金がマイナスであれば、年金が目減りし、マクロ経済スライドが効かず、年金財政が破綻すると言われている。少子高齢化の進展で年金財政の悪化は避けられず、対策が急務となってきている。財政検証のごまかしが国民の生活を脅かすことが懸念される。
日本歯科医師会
富山県歯科医師会
富山市歯科医師会
公的年金制度は、年金給付に要する費用をその時の現役世代の負担によって賄う「賦課方式」を基本としつつ、一定の積立金を保有しそれを活用する財政方式を採用している。具体的には、公的年金の給付は、毎年度、「①保険料収入」、「②国庫負担」、「③積立金(元本の取崩し及び運用収入)」の3つの財源により賄われているが、積立金は補助的な役割となっている。国民年金法第四条の三において、「政府は、少なくとも五年ごとに、保険料及び国庫負担の額並びにこの法律による給付に要する費用の額その他の国民年金事業の財政に係る収支についてその現況及び財政均衡期間における見通しを作成しなければならない。」と規定されている。
8月27日、厚生労働省の社会保障審議会年金部会から公的年金の財政検証が発表になった。現役世代の平均手取り収入に対する給付水準(所得代替率)は経済成長と労働参加が進むケースでは将来にわたり50%以上を維持できそうだという試算内容になっている。ただ、この水準は65歳での受け取り開始時点に限ったもので、年齢を重ねるごとに目減りして最終的には40%程度に下がる。
所得代替率は(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入で計算されるが、2019年度で(13.0万円+9.0万円/35.7万円)=61.7%である。
前回の2004(平成16)年年金制度改正においては、少子高齢化が進行する中、将来世代の負担が過重なものとなることを避けるために、将来にわたって保険料水準を固定しつつ、その範囲内で給付を賄えるよう「マクロ経済スライド」により年金の給付水準を調整する仕組みを導入することにより、長期的な給付と負担のバランスをとりつつ、将来にわたって年金の給付水準を確保することが決められた。具体的には、①上限を固定した上での保険料の引上げ(保険料水準の上限:国民年金17,000円(2004年度価格)、厚生年金18.3%)、②基礎年金国庫負担の2分の1ヘの引上げ、③積立金の活用(概ね100年間で財政均衡を図る方式とし、積立金を活用して後世代の給付に充当)である。
そして、今回の2019(令和元)年財政検証においては、経済成長と労働参加が進むケース(ケースI〜Ⅲ)では、マクロ経済スライド終了時に、所得代替率は50%以上を維持するが、経済成長と労働参加が一定程度進むケース(ケースⅣ・V)では、2040年代半ばに所得代替率50%に到達する(その後も機械的に調整した場合、マクロ経済スライド終了時に、所得代替率は40%台半ば)。
経済成長と労働参加が進まないケースⅥでは、機械的に調整した場合、2052年度に国民年金の積立金が無くなり、完全賦課方式に移行せざるをえない。ただし、ケースⅥは、長期にわたり実質経済成長率▲0.5%が続く設定であり、年金制度のみならず日本の経済・社会システムに幅広く悪影響を生じるので、回避努力が必要となる。
(表2019年財政検証結果参照)
経済成長と労働参加を促進することが、年金の水準確保のためにも重要であり、オプション試算A(被用者保険の更なる適用拡大―・適用拡大を125万人、325万人、1,050万人の3つのケース)と、オプション試算B(保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択―・基礎年金の加入期間の延長・在職老齢年金の見直し・厚生年金の加入年齢の上限の引上げ・就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大)も試算されている。
年金財政検証にはいろいろ問題点が指摘されている。
まず、2047年までのマクロ経済スライド(賃金再評価や物価スライドの改定率から、現役被保険者の減少を基本とした調整率を控除し、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組み)であり、国民年金は6.5万円から5万円になり3割も削られる。どうやって生活していけるのか疑問である。
次に、20年間実質賃金はほぼマイナスなのに、全ケースプラス想定としていることである。そして、財政検証はに6つのシナリオを設定して、経済再生のケース(Ⅰ〜Ⅲ)では代替率が5割を維持し、半数のシナリオ(Ⅳ〜Ⅵ)は5割以下となっているが、非現実的なシナリオで試算されていることである。物価や賃金が上がらず、運用利回りもほぼゼロの現実に対して楽観的数値で試算がおこなわれている。(2019年財政検証の諸前提参照)
実質賃金がマイナスであれば、年金が目減りし、マクロ経済スライドが効かず、年金財政が破綻すると言われている。少子高齢化の進展で年金財政の悪化は避けられず、対策が急務となってきている。財政検証のごまかしが国民の生活を脅かすことが懸念される。